第19回
「ZigZag(ジグザグ)」は、チャート上に名前の通りジグザグの線を自動で描画してくれるインジケーターです。これにより、チャート上にトレンドがあるのか、トレンドが無いのかなどを明確にしてくれます。ローソク足の動きの連続は、詳細な推移を教えてくれる代わりにトレンドの有無やトレンド発生などは気づきにくい点があります。一方で、このZigZagを見ることによって、相場の動きを簡潔に整理でき、トレンドの発生を簡単に見つけられるようになります。このインジケーターは、1977年にアーサー・A・メリルが著書『Filtered Wave, Basic Theory』の中で紹介したテクニカル指標とされています。
ZigZagはMT4やMT5、TradingViewなどの定番チャートツールでも標準装備されており、現在でも多くのトレーダーが使用する人気インジケーターとなっています。メリルが開発したZigZagは、一定割合以上の価格変動があった高値・安値をつなぐ仕組みで、TradingViewのZigZagで採用されています。一方で、MT4やMT5のZigZagの仕組みはメリルが開発したパラメーターとは少し違っています。どう違うかというと、価格ベースではなく時間ベースで高値・安値を決める仕組みになっています。なぜそういった変化が出たのかは不明ですが、ここでは、MT4向けのZigZagの計算式について解説していきます。
ZigZagの計算式は高値、安値をどう捉えるかがポイントになります。この基本ロジックを理解するためには、まずは暫定の高値と安値、確定の高値と安値があるということを理解しましょう。
暫定高値とは直近X期間における高値が更新されたとき、その高値が暫定高値となります。
暫定安値とは直近X期間における安値が更新されたとき、その安値が暫定安値となります。
暫定ですので、暫定高値からさらに高値更新、もしくは暫定安値からさらに安値更新すれば引き直されます。
次に、確定の高値、安値を確認しましょう。
確定高値とは暫定高値の発生後に暫定安値が発生すると、その暫定高値が高値として確定します。
確定安値とは暫定安値の発生後に暫定高値が発生すると、その暫定安値が安値として確定します。
*注意事項:以下の場合、確定した高値・安値が削除され、ラインがリペイント(引き直される)されます。
暫定高値が過去Y期間以内の高値を上回ったとき、その高値が削除されます。
暫定安値が過去Y期間以内の安値を下回ったとき、その安値が削除されます。
(MT4でのパラメーター、X期間=Depth、Y期間=Backstep)
ここでは、X期間を3日としてロジックを下の図で確認してみましょう。一番左は上昇のラインが引かれています。その後、3日間の安値も高値も更新していないのでラインが高値で止まっています。真ん中の図では3日間の安値を更新したため暫定安値のラインが引かれると同時に暫定高値が確定高値になりました。一番右側はさらに安値更新したことでそれまでの描画がリペイントされ新たに引き直されたことを示しています。これが、ZigZagの基本ロジックとなります。
ZigZagの計算式は、期間であるDepthと、ラインが引き直される期間のBackstep(バックステップ)、転換率であるDeviationで構成されています。
ある期間内で高値、安値の更新を追跡するための設定値がDepthとなり、MT4のデフォルトは12に設定されています。そして、現在の高値・安値を過去の高値・安値と比べた時に遡る期間のことをBackstep(バックステップ)といいMT4では3に設定されています。最後に、転換率であるDeviationはBackstepで設定した期間内で、暫定高安値が確定するまでに必要な逆方向への値動きのパーセンテージを表します。Deviationが5なら5%価格が折り返したら暫定安値が確定安値になります。ただ、この数値はプログラム内で使用されますが、最終的な描画には殆ど影響しませんので初期設定から特に変更する必要はありません。
ZigZagは設定された期間の間で高値と安値がどう推移するかという事が大事になってきます。一番のポイントは、ある期間内で高値、安値の更新を追跡するための設定値であるDepthとなります。Depthの設定を変えることで描画される動きが変わってきます。上昇したり下降したりする動きの事を波動と呼び、後ほど詳しく解説していきますが、Depthを大きくすれば、ZigZagの描く波動は大きくなり、小さくすればZigZagの描く波動は細かく上下するラインになります。つまり、このDepthの数値を変えることで描かれる波動が全く違ったものに見えるという事です。更に、Backstep(バックステップ)も現在の高値・安値を過去の高値・安値と比べた時に遡る期間になりますので、設定の数値を大きくすればZigZagが大きくなり、小さくすれば細かな波動になります。下の図はDepth20とDepth7の違いになります。
通常のインジケーターであれば、インジケーターの計算式やその意味を理解して、売買サインを見ていきますが、このZigZagでは、これを使って売買サインとして使うには使い勝手が良くないために、まずは、基本の活用方法を見ていきましょう。なぜ、ZigZagを引くのでしょう。それは、皆さんがチャートを見てどのようなトレードをしたいと考えているかを確認するためです。それがZigZagを引くことで見えてきます。どういうことかというと、同じチャートでも大きな波動を狙いたい方と細かな波動を狙いたい方では見ている波動が違うのです。下の図はZigZagが入っていないチャートです。このチャートを見て、ご自身でZigZagを引いてみましょう。引き方はご自身が気になる高値と気になる安値を結んでジグザグと上下に線をつないでいきます。
では、皆さんはどういったラインを引きましたでしょうか?ここに、2つのZigZagを表示します。ひとつはDepthが20、もう一つはDepthが7です。あなたの狙いたい波動はどちらに近かったでしょうか。
どちらが正解というものではありません。ある意味どちらも正解です。要は、チャートを見てどういったトレードがしたいのか、どういった波動を狙いたいのかによって違うという事です。小さな波動を狙うという事は利益も損失も小さくなる傾向があります。一方で、大きな波動を狙うという事は利益も大きくなりやすいと同時に損失も大きくなりやすい傾向があるという事です。Depthを調整することで見えてくる波動が違ってきますので、皆さんが狙いたい波動はどの期間なのか、設定を変えながら確認してみましょう。
では、ここからは応用編を見ていきましょう。このZigZagのインジケーターの特徴は波動の動きがわかることです。上昇トレンド、下降トレンドが継続しているのか、もしくは、トレンドが転換したのかという事がZigZagを描画することで浮き彫りになるという事です。このことを理解するには、波動の形を理解することが必要です。波動はまずは1本の波動から始まります。これを「I」波動と呼びます。次に2本目の波動が反対方向に出てきます。この波動の事を「V波動」と呼びます。そのV波動の次にさらに反対側に3本目の波動が出てきます。これを「N波動」と呼びます。このように、1本の波動から派生して上下することでN波動につながっていくわけですが、このN波動がどのようにできるかで意味合いが変わってきます。上昇トレンドは「上昇のN波動」が連続して出来ています。下降トレンドは「下降のN波動」が連続して出来ています。これを理解するだけで、チャート分析の力が大きく変わります。上昇トレンドが継続するには「上昇のN波動」が連続します。ということは、その上昇トレンドが終わる時には「下降のN波動」が出現するという事です。これによって、今、狙うべきものが明確になります。上昇のN波動が出現しているところで売りを狙うのは確率が低いことがわかります。上昇のN波動であれば買いを狙うべきです。一方で、下降のN波動が出現しているのであれば、買いではなく、売りを狙うべきです。この大事な理論を、ZigZagを描画することで明確にしてくれるのです。
では、実際のチャートで見てみましょう。下の図はDepthが7の波動です。チャートの左側から、上昇のN波動が出現しています。そこから下降のN波動が出現しました。ここが、明確に流れが変わったところです。しばらく下降のN波動が連続していましたが、今度は上昇のN波動に代わります。そして、再度下降のN波動に代わりました。このようにZigZagを描画することでトレンドの変化をしっかりと捉えることができます。
また、Depthを20にすると、今度は大局のトレンド変化が見えてきます。先ほどのDepth7で一度下降のN波動から上昇のN波動が出現し、再度下降のN波動に変化したところは、大局の動きでZigZagを見れば、一時的な反発だったことがわかります。
このように、ZigZagを描画することで、波動の変化を捉えること出来るため、エリオット波動の考え方やダウ理論の考え方などと組み合わせて分析するという考え方もでてきます。波動を捉えることは、トレードの成果に直結します。自分の狙いたい波動を決めるところから初め、慣れてくれば小さな波動の変化、大局の波動の変化を確認していきましょう。上昇N波動が下降のN波動に、下降のN波動が上昇のN波動に代わるところがポイントですので、チャートと向き合いながら分析能力を向上させていきましょう。
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チャート分析の第一人者としてセミナーで講師を務めるなど、教育活動を精力的に展開している人気講師。
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